記憶の真実⑤:ストレージは増えないのに記憶が増える理由──配線の組み合わせの話

「脳って、物理的な大きさは変わらへんのに、なんで新しいことをどんどん覚えられるん?」

こう疑問に思ったことはありませんか?
スマホの容量はすぐいっぱいになるのに、脳は歳を重ねても“容量不足”になりません。

これ、よく考えると不思議です。でも、脳の仕組みを知っていると、めちゃくちゃ納得できるんです。

結論からいうと:

脳は「データを保存」しているんじゃなくて、「つながり方(配線パターン)」を増やしている。

つまり、ストレージを増やすのではなく、組み合わせのバリエーションを爆発的に増やしているんですね。


記憶は“点の数”ではなく“つながり方”で決まる

脳にはニューロン(点)が無数にある、とこれまでの記事で触れてきました。けれど、記憶を増やすときに重要なのは「点の数」ではなく「線の引き方(シナプスの配置)」です。

たとえば、10個の点があったとしても、線の引き方によって模様は何万通りにも変わります。それと同じで、脳は限られた“点”を使いながら、線の引き方(配線パターン)を増やすことで無限に近い記憶を扱っているんです。

つまり、脳の中では、こんな変化が起こっています:

  • 新しい線が引かれる
  • 既存の線が強化される
  • 要らない線が弱まり整理される
  • 遠い点同士が新しくつながる
  • 以前つながらなかった模様どうしが接続される

この“つながり方の進化”こそが、記憶の増加そのものです。


脳は“圧縮と再利用”をしながら記憶を扱っている

スマホのストレージと違って、脳は“そのまま保存”をしません。

脳がやっているのは、

  • 抽象化(特徴ごとにまとめる)
  • 圧縮(重複する情報をまとめる)
  • 上書き(新しい経験に合わせて修正)
  • 再利用(既存の回路を別の記憶でも使う)

という作業です。

たとえば、毎回見た犬の見た目を丸ごと保存してたら、脳は速攻で容量オーバーします。でも実際には、

  • 「耳の形」
  • 「歩き方」
  • 「毛並み」

みたいな要素(点)を抽象化して、それらの“つながり方(線)”を変えるだけで、「いろんな犬の記憶」をまかなえるんです。

まさに“圧縮と再利用の天才”です。


人間の脳と生成AIの共通点:特徴の組み合わせから無限の表現をつくる

生成AIの画像生成でも、モデルは無限の画像を保存しているわけではありません。

持っているのは、

  • 膨大な特徴ベクトル(点)
  • それらを結ぶ重み(線)

だけです。

それらの組み合わせのパターンが膨大だから、無限のように画像を作れる。

脳もこれとまったく同じで、

限られた神経細胞の中で、線の組み合わせで世界を表現している。

だから、大人になってからも記憶や経験を増やせるんです。

むしろ年齢を重ねるほど、配線パターンの“質”が上がり、判断や理解がスムーズになっていきます。


記憶が増えるのは、脳に新しい回線が敷かれているから

脳が何かを覚えるとき、こんな物理的な変化が起こります:

  • シナプス(線)が増える
  • シナプスの強さが変わる
  • シナプスの位置が変わる
  • ニューロン同士のつながりの“距離”が変わる
  • ネットワーク全体の配置が微調整される

つまり、「新しい線が一本増える」だけでも、そこから波及してネットワーク全体の模様が変わっていくんです。

だからこそ、物理的なストレージの限界を気にせず、記憶を増やしていける。

脳は、保存ではなく“構造の再編”で勝負しているんです。


限られたストレージで無限の世界を扱う“最強の回路”

脳は、まるで巨大な都市。

建物(点)が無限に増えるわけではないけれど、道路(線)が増えたり分岐したりすると、

  • 行ける場所が増える
  • 新しいルートができる
  • 回遊性が上がる

といった変化が生まれます。

記憶もこれと同じ。

脳は「点の数」より「つながりのルール」を増やしている。

これが、ストレージが増えなくても記憶が増えるカラクリです。


次回は、年齢とともにどのように“重みづけ(判断の精度)”が変化するのか。そして、忘却がなぜ「劣化」ではなく「最適化」なのかに迫ります。