「なんで繰り返すと覚えられるん?」という疑問は、学校でも仕事でも、一度は感じるものだと思います。暗記が苦手だと、とくにここが謎ですよね。
でも、脳の仕組みから見ると答えはとてもシンプルで、しかも美しい。
結論はこれです:
繰り返し触れた記憶は、“線(つながり)”が太くなる。
太くなった線は、信号が通りやすくなる。だから覚えられる。
この章では、この“線が太くなる”という現象の正体をやさしく辿っていきます。
記憶は「どれくらい強く結びついているか」で決まる
前回までの記事で、記憶は「点(ニューロン)と線(シナプス)の模様」だと説明しました。
では、“覚える”とは何か?
それは、模様の中の線が太くなることなんですね。
線が太いと、点と点の間を信号がスムーズに通る。逆に細いままだとつながりが弱く、すぐ途切れてしまう。
だから、
- 覚えられない → 線が細い
- 覚えてきた → 線が太くなってきた
- 完全に定着している → 高速道路みたいに太くて安定
というシンプルな構図になります。
繰り返しは、この“線の太さ”を育てる行為なんです。
繰り返すたびに起きていること:道路工事みたいなもの
脳の中では、繰り返し信号が通るたびに、こんなことが起きています:
- 道路が補強される
- 交通量(信号)が増えて”優先道路”になる
- 小道が大通りにつながってショートカットができる
- 使わない道が自然に消えていく
これらはすべてシナプス(線)の変化として起きていて、専門的には「長期増強(LTP)」と呼ばれます。
でも、ここでは難しい言葉より、
“通った道が舗装されていく”
とイメージしておけば十分です。
思い出すことそのものが“強化のトリガー”になる
ここが意外と知られていないポイントですが、
記憶は「見たとき」より「思い出したとき」に強くなる
脳は、外から入ってくる情報より、“自分の内部の線を使う”ほうが強化が起きやすいんですね。
だから、
- ノートを繰り返し読むだけだと、線はあまり太くならない
- 一度思い出してから答え合わせをしたほうが圧倒的に定着する
これは記憶術でも勉強法でも有名な話ですが、その理由は脳が「生成型」のシステムだからです。
自分の内部ネットワークを使うほど線は太くなる。
これ以上のチートはありません。
間隔を空けると記憶はさらに“強い道”になる
繰り返すと覚えられる──これは誰でも知っていますが、実は繰り返す“間隔”も極めて重要です。
というのも、
少し忘れかけた状態で思い出すと、線の太り方が跳ね上がる
から。
いったん薄れた模様を再構成するためには、脳がより多くの点と線を総動員します。これが強烈な強化につながる。
これを「間隔効果」と呼びますが、要するに:
- 連続10回より
- 1日おき×10回のほうが圧倒的に覚える
ということです。
道路も、少し放置してから補強したほうが、より丈夫になるのと同じです。
生成AIと同じ“学習の仕組み”が、人間にも備わっている
生成AIも反復学習によって重み(線)を調整していきます。
- よく出てくる特徴は重みが強くなる(太くなる)
- 出てこない特徴は弱まる(細くなる)
- 時間を空けた再学習で安定性が増す
まさに、人間の記憶と同じです。
AIが「猫っぽさ」を獲得していくプロセスは、人間が「漢字を覚える」のとほぼ同じ原理。
ぼくらの脳は、AIが生まれるよりずっと前から“繰り返し学習で強化されるネットワーク”を使っていたわけです。
記憶は努力の量ではなく、“線の育て方”で決まる
繰り返しが大事なのは、単に根性論ではありません。
線が強くなるという、物理的な変化を引き起こすための必要条件なんです。
だから、覚えたいなら:
- 読むだけより、思い出す
- 一気にやるより、間を空けてやる
- ひとつ覚えたら、関連する記憶の点と線もつなげる
これらがもっとも効率の良い方法になります。
努力ではなく“仕組み”の問題です。
次回は、**「ストレージが増えていないのに、記憶が増えたように感じる理由」**に迫ります。脳がどのように“限られた空間の中で無限の表現をつくるのか”、生成AIとの比較でさらに深掘りしていきます。
