記憶の真実③:なぜ思い出したり、忘れたり、記憶違いが起こるのか?

記憶というのは、静かに保存されている「記録」ではなく、思い出すたびに形を変える「生成物」だ──前回までの記事でそんな話をしてきました。

今回は、その“生成される記憶”の性質がもっともよく現れる部分、つまり

  • なんで記憶は曖昧になるのか?
  • なんで間違って思い出すのか?
  • なんでいきなり昔のことを思い出すのか?

この3つをテーマにしていきます。

答えを先にまとめると、脳は“その場で再構成している”からぶれるし、揺れるし、混ざるんですね。


記憶は録画じゃない。毎回“作り直されている”

よく「昔の記憶が曖昧になるのは、脳が劣化してきたからだ」と思われがちですが、本当はまったく逆です。

脳は、保存されている“データ”を取り出すのではなく、点と線の模様(ネットワーク)に従って“再生成”しているだけ。

同じレシピでも毎回ちょっと味が変わるスープのようなもので、一定はしてるけど、完全に同じにはならないんです。

だからこういうことが起こる:

  • 思い出すたびに細部が変わる
  • 覚えていたはずの場面が少しズレる
  • 自信満々だったのに実は間違っていた

これらすべて「脳の普通の挙動」です。欠陥ではなく、そういう仕組みなんですね。


記憶違いの正体は“ネットワークの混線”

記憶違いが起きるとき、脳の中では何が起こっているのか?

単純に言えば、似たパターン同士が混ざるんです。

脳は点と線の模様で記憶を持っています。そして似た模様は互いに近い場所にある。だから、

  • Aという出来事の模様
  • Bという出来事の模様

が少し似ていると、思い出すときにAの線をたどっていたはずが、途中からBの線に入ってしまう。これが「記憶違い」です。

これは生成AIでいう「指の形がちょっとおかしい」「犬と猫が混ざる」といった現象と同じ。特徴が近いと混ざるんです。

つまり、人間の記憶違いは“ミス”というより、“生成処理の仕様”みたいなもの。


忘れるのは“劣化”ではなく、小さな“剪定(せんてい)”

よく使う線(シナプス)は強く太くなる一方で、使わない線は細く、弱くなっていきます。

この“線が細くなる”ことをぼくらは「忘れた」と感じるわけです。

でもこれは単なる劣化ではなく、庭の木の枝を整える剪定と同じ。必要な枝を残し、不要な枝を整理することで全体が健全になるんですね。

脳も同じで、思い出す確率の低い線を弱めることで、必要な模様をスムーズに立ち上げられるようにしているんです。

忘却は欠陥ではなく、むしろ最適化の一部。


いきなり思い出す理由:連想ネットワークが勝手に走り出す

突然「あ、そういえば…!」と昔のことがよみがえることがありますよね。

あれは、脳が「デフォルトモード」と呼ばれる、ぼーっとしている状態のときに起こりやすい。

このとき、脳は勝手に点と線(記憶ネットワーク)をたどっていて、その過程でどこかの模様がパチッと閾値を超えて立ち上がると、一気に“フラッシュバック”のように蘇ります。

匂いで急に昔の記憶が戻るのも同じ。匂いは点と線のネットワークの「入り口」を強く刺激するから、そこから模様全体が再生成されるんですね。


脳もAIも、結果がブレるのは“生成方式”だから

脳が記憶を「保存」ではなく「生成」しているという事実は、生成AIの性質とかなり重なります。

  • AIが画像を生成するたびに微妙に違う仕上がりになる
  • ノイズが混ざったり、似た特徴を取り違えたりする

こうした現象は、脳の「記憶違い」や「曖昧さ」とほぼ同じ原理で起きている。

つまり、ぼくらが時々変なことを思い出すのは不思議でも何でもなくて、脳が“生成型の記憶システム”だから当然起きる現象なんです。


曖昧さは欠陥ではなく、柔軟さの証拠

脳が曖昧な記憶を持つのは、弱点ではありません。むしろ、曖昧だからこそ、

  • 過去の経験を組み合わせて新しい発想ができる
  • 古い記憶と新しい情報の関連付けがしやすい
  • 想像力が働く

というメリットがあります。

曖昧な記憶があるから、ぼくらはクリエイティブになれる。忘れるからこそ、必要な情報だけを再構築できる。

脳は最初から「曖昧であること」を前提に設計されているんです。


次回は、**「繰り返すとなぜ記憶が強くなるのか?」**という、ほとんどの人が気になっているポイントに触れます。道路が太くなり、レシピが強化され、模様がくっきりしていく──そんな記憶強化の仕組みを、生成AIとの比較も交えながら解説します。