記憶の真実②:記憶の本体は“点と線で描かれた模様”だった

前回、記憶は“ファイル”ではなく、その場で再構成されるものだと書きました。今回はそこからもう一歩踏み込んで、記憶そのものの正体について触れていきます。

結論から言うと、記憶は「点(細胞)と線(つながり)が描く模様」です。

言い換えると、脳は巨大な点描画のような構造をしていて、その点と点をどのように繋ぐか――その“つながりのパターン”こそが記憶の本体なんですね。

スマホみたいに「写真フォルダ」があるわけじゃなくて、脳そのものが“リアルタイムで絵を描くシステム”になっているという感覚です。


点(ニューロン)と線(シナプス)が生み出す“模様”が記憶になる

脳には膨大な数のニューロン(神経細胞)が存在します。これを記事の中では“点”と呼んでいます。そして、その点を結ぶ無数の“線”がシナプス。点が意味を持つのではなく、点と線の組み合わせによって意味が生まれる──ここが大事です。

例えば、

  • 「赤いものを見た」
  • 「どこか懐かしい匂いがした」
  • 「誰かの声を聞いた」

こういう感覚的な情報はバラバラの点として脳に入ってきます。でも、これらが“線によって結ばれる”と、一つの意味や感情、ひとかたまりの「出来事」として立ち上がるんです。

記憶は“情報”ではなく“模様”。そう考えると一気に理解が進みます。


脳は絵を保存していない。“描き方”を覚えているだけ

脳は、何かをそのまま保存することはできません。できるのは、「この点とこの点をこう繋げば、あのときの光景になるよ」という**レシピ(描き方)**を覚えておくことだけです。

だから思い出すたびに内容が変わるし、人によって“同じ出来事の記憶”が違ったりもする。保存された画像を取り出しているのではなくて、**レシピに従って“その場で描き直している”**からなんですね。

レコードの溝が深くなるように、何度も思い返すと点と線のつながりが強化され、模様がくっきりしてくる。逆に、長いこと思い出さない記憶は線が細くなって、模様が薄れていく。

“忘れる”というのは、欠陥ではなく整理整頓の結果なんです。


ここでも生成AIと脳は驚くほど似ている

前回も少し触れましたが、脳のこうした“点と線の模様”という考え方は、生成AIの仕組みにとても似ています。

画像生成AIは、一枚の写真をそのまま記憶しているわけではなく、

  • 形の特徴
  • 色の特徴
  • 光の特徴
  • 質感の特徴

といった膨大な「点」にあたる特徴を持っています。それらを結ぶ「線」が重み(パラメータ)。この点と線の配置や強さの組み合わせによって、AIは“猫っぽさ”や“夕焼けっぽさ”を表現します。

脳もこれと同じで、無数の点と線から記憶を組み上げています。

つまりぼくらは、

“自分の頭の中に最強の画像生成AIがある”

くらいに思ってもいいわけです。


記憶の質は“点の数”ではなく“つながり方”で決まる

よく「脳の容量が足りない」「記憶力が悪い」などと言われますが、それは点の数が足りないのではなく、つながり方が弱いだけです。

  • よく使う線は太くなる
  • 使わない線は細くなる
  • 新しい線も追加される

このように、つながり方は一生変わり続けます。

だから、“忘れること”は衰えではなくて、必要な模様を残すための自然な更新なんです。


「記憶=模様」という視点を持つと、世界が少し面白くなる

この視点を持つと、ふだんの経験の感じ方が変わります。

たとえば、

  • 新しい出会いは「点の追加」
  • 印象深い体験は「線の強化」
  • 忘れていく記憶は「線の整理」
  • 無意識のひらめきは「模様同士の接続」

として見ることができるんです。

脳の中では毎日、無言のアート作品が描き変わり続けているようなものです。


この第2回では、記憶が“点と線の模様”として成り立っていること。その模様こそが記憶の本体であることを解説しました。

次回は、もう少し踏み込んで、**「なぜ記憶は曖昧になるのか」「なぜ人は間違って思い出すのか」**というテーマに迫ります。脳が“保存”ではなく“生成”していることの影響力がよくわかる回です。